警備員の中にも寡黙でまじめな人は居ます。過去の現場にいた先輩警備員にこれに当たる人がいました。誰でも優しく寡黙で人を押しのけて主張せず、言われた事を黙々とこなすような人でした。私よりも10年以上の経験があり知識もありました。しかし、世の中はこれだけでは人生が上手くいくとは限らないのです。
真面目な警備員は存在する
今まで経験してきた現場で、彼ほど真面目な人は居ませんでした。
私が初めて警備員として勤務した現場に彼は居ました。
私よりも5才ほど年上で、警備員の経験も私が入社した時で、10年以上のベテランだった気がします。
彼の他の隊員さんに対する態度は物静かで、そして丁寧に説明してくれるおかげで、他の厳しい先輩警備員が居ても何とか耐えられた新人警備員さんも少なくは無かったと思います。
どんな現場でも、厳しくそして理不尽な事を云う先輩警備員というのは居ると思いますが、こういった真逆な優しい先輩警備員も居ると思います。
私も彼が居ないあの現場だったら、1年持たなかったかもしれないと言っても過言ではありません。
そんな優しい警備員さんですが、数年一緒に仕事をして「そういう性格が逆に損していないか」と思う様な事もありました。
主張しないと損する事も
優しいだけでは世の中損をする。
そんな言葉がしっくりくる先輩警備員でした。
誰かが当日の仕事を電話一本でドタキャンした時、隊長や副隊長は真っ先にこの先輩警備員に残業依頼の話をしていました。
もちろん先輩警備員は断りません。
そんなやり取りが月に何度もあり、彼は毎日と云っていいほど疲労している様に見えました。
まあ、もともと勤務表も詰め込まれていたので、仕事を入れらる程の空きもありませんでしたがね。
そして、仕事に対して自分の主張をしないので彼は警備員の資格を持っていません。
何故、まじめで経験も十分ある彼が資格を持っていないかと云うと
「資格を取らせてください」
と自分で言わないからです。
警備会社が全てそうとは思いませんが、資格は自分からとりたいと主張しないと取らせてくれません。
警備会社ごとに受講できる枠数が決まっていて、会社もやる気のある人にしか許可しません。
本人が受ける気が無いのに受講させては、やる気の問題から不合格になってしまうかもしれません。
ただでさえ少ない枠数なので、会社としては絶対に合格して欲しいのです。
なぜ、絶対合格して欲しいのかはまたの機会に話すとして
自分から受講したいと申し出る人は、合格したい為に言われなくても勉強する
と判断しているのです。
しかしこの先輩警備員は自ら自分の為には動きません。
別に資格が無くても仕事は出来ますし、他の人が受講したいというのなら、それを押しのけてまで「自分が受けたい」とは言わない様な人なのです。
こういった性格なので、10年以上警備員として仕事をしていますが、知識や経験はものすごくあるのに施設警備業務検定の資格を持っていないのです。
以前、私が資格を取った時にも「〇〇さんも資格取ったらどうですか」と勧めた事がありました。
物静かに断っていました。
彼を見ていて、今どきこんな性格ではだいぶ損している事もあるんだろうな、と思いました。
それでも理想的な人物像ではある
自分の人生が損をしているか得をしているかは、人それぞれです。
その人がそれで良いと思えば良いわけですし、他人から見たら損している様に見えても、実はものすごくハッピーかもしれません。
彼のような性格の警備員さんが居たから助けられた警備員さんもたくさんいると思います。
仕事の面でも、彼の様にありたいと思う事も多かったです。
待機中でもひとたび事案が発生すると、呼ばれてもいないのに様子を見に来ていつの間にか応援に入っていたり、誰かが忘れてしまった仕事も黙って彼の代わりに片づけていたりと現場も彼に助けられていた事が多かったと思います。
私か見たら自分の事を全て後回しにして、周りを助ける行動は中々できないと思います。
それは自分が損すると思っているからです。
人が嫌がる事を自分から率先して行動する事は、誰から見ても美しいと思います。
仕事でそれが出来る人はなかなかいません。
私も今隊長なので、責任感から彼に近い様な行動をとりますが、この先輩警備員は隊長でもない一般の隊員にもかかわらずその行動がとれるのです。
当時毎日忙しく仕事をしていた先輩警備員ですが、待機中に仮眠してしまうと結構な確率で寝過ごしていましたが、誰も彼を咎める人は居ませんでした。
みんな日頃から彼に助けられ、毎日忙しそうにしているのを目の当たりにしていましたからね。
どこの現場にもそんなスーパー警備員が居たら、ありがたく思いそして彼が壊れてしまわない様に労わってあげましょう。